荒木伸吾さんの想い出 その７

　荒木伸吾さんにお会いした際ご覧にいれた、これまで探して読んできた劇画誌掲載の荒木作品。ハードボイルド以外にも抒情的かつ繊細で心に響く作品が多く、これらを十代で描いていらしたことに驚嘆していました。

　そんな荒木さんですが、それまで受けてこられたアニメ関連の取材では、劇画時代の作品まで知っていた人はあまりいなかったそうです。

　ここまで読んできた人間が、珍しかったこともあったのでしょう。こちらが受けた感想を、一作ずつうれしそうに聞いてこられました。

　十代の頃、荒木さんは地元の名古屋の鉄工所で日中、過酷な労働現場で懸命に働いておられました。そして帰宅後、疲れてへとへとになった身体で深夜遅くまで劇画を描いていたのです。時には集中し過ぎて、徹夜になったこともあったそうです。
　そこまでして真剣に向かっていた作品ですから、どれにも深い愛着をお持ちだったに違いありません。

　この作品はこんな風に感じました。こちらでは、ここの描写が迫りました。この主人公の気持ちはこうだったんでしょうか、などと、たどたどしくも感想をお話ししていきました。
　すると、「ああ、そうですか」、「これはどうでしたか」と、ひとつずつ本を取り上げて、身を乗り出すようにしてお尋ねいただきました。

　「あの頃は、読者の感想なんか来ませんでしたからねえ。ただガムシャラに描くだけでした」
　「こうして今になって感想を聞けるなんて、本当に嬉しいことですよ……」

　と、掲載された劇画誌のページをゆっくりとめくりながら、厳しい環境の中でも前向きだった多感な少年時代を振り返るようにお話しいただきました。（つづく）



荒木伸吾さんの作品が掲載された『街４５号』『街姉妹編ダイナミックアクションシリーズ』