荒木伸吾さんの想い出 その19
- 2022/03/20
- 06:30
荒木さんからお電話をいただく際、会話の最後に「私も、もういつ死ぬかわからんもんね」と冗談めかしておっしゃられることがしばしばありました。
その時は、「そんなことをおっしゃってはだめですよ。ここまで見せられて、未完のままで終わったらファンは殺生です。是非描き続けてください。どんどん作品の放つパワーがものすごくなっているんですから、ここでやめられないですよ」と、いつもお伝えしていました。
荒木さんご自身も、描いているうちにどんどん絵への情熱が湧き上がっておられたようです。何度も描き直してはまた彩色し直して、よく出来たと思われると画稿やイラストのカラーコピーをいつも送ってくれていました。
到着した頃には、電話で「着きましたか。今度のはどうかねえ」と、こちらの感想を気になさるのです。
色使いも試したり、絵の具や画用紙も合うものを探して、いろいろ試行錯誤していらっしゃいました。またそれが楽しいご様子でもありました。
「朝から寝っころがって描いていると、時間がどんどん過ぎるもんねえ」と、仕事から離れ自分自身のオリジナルの世界を思いのままに描かれることを心から楽しんでおられました。
こちらとしては回を追うごとにパワーが溢れてくる画に、感嘆してその感想を申し上げるしかできません。
ですが、荒木さんは「いやあ、ありがとう。こうして話していると、また描こうと元気が出てきますよ。また電話させてもらいます」といつもうれしそうに、おっしゃってくれていました。
お別れを迎えることになった前週も、これから描きたいモチーフについて力強く教えてくれました。
最後のお言葉となった「ありがとう。では、また電話させてもらいますね」という明るく弾んだ声は、今も耳に残っています。(つづく)
荒木伸吾回顧展『瞳と魂』チラシ
亡くなられた翌年、2012年11月から12月に秋葉原で行われました。
会場入り口前には在りし日の荒木さんの大きなパネルが掲げられ、
来場者を迎えてくれていました。
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