伝説のミュージシャンを追った映画『スライ・ストーン』②

　映画は後半、スライのお眼鏡にかなったアルケマ監督の密着取材になります。現在もパソコンに向かい作曲を続けるスライは、アルケマ監督に対していろいろと話してくれるようになります。その中で、一番印象に残ったのは次の言葉です。

　「俺は、嫉妬という言葉は知らなかった、高校に入るまではな」
　音楽一家に育ち、才能に恵まれ子供の頃から音楽に親しんできたスライは、誰でも自分のように音楽をプレイすることができると思っていたのでしょうか。

　確かに私がスライ＆ファミリーストーンの曲に惹かれていたのも、その無垢で楽しい音楽性でした。初めて高校時代ラジオから流れる「ダンス・トゥ・ザ・ミュージック」を聴いたとき、その楽しくゴキゲンな雰囲気に魅了されレコードを探しに走ったことを思い出します。
　しかし、そんな彼も都会に出てバンドを結成しヒットを出し始めると、レコード会社など周囲の思惑に揉まれていきます。日々のビジネスに追い立てられていき、自らを失っていったのかもしれません。

　そして彼が選んだことが、周囲の喧騒から身を隠す隠遁生活だったのでしょう。それでも旧曲の再発印税などで、一定の収入はありました。ところが、ある時期からすべてを任せていたマネージャーが彼への支払いをストップしてしまったのです。
　困窮し自分の車で生活し始めたスライは、元マネージャーを訴えようとします。ただ、裁判の有力な根拠となるはずの契約書も、スライは失くしていました。

　しかし、スライ・マニアであるコニング兄弟が、なんとその写しを入手していたのです。この証拠によりスライは勝訴することが出来、これから活動を再開してくれるようです。自分たちが集めてきた資料がアーティストの一助になったということは、ファン冥利に尽きます。まさに、マニアの鑑と言うべき姿を見せてもらった気にもなりました。

　アルケマ監督のスライ探索にかける執念、ファミリーストーンのメンバーたちの絆、スライ＆ファミリーストーンの活躍した時代、コニング兄弟の情熱、そして今も健在なスライの姿と、内容も盛りだくさんで大満足の映画でした。



『スライ・ストーン』ポスター
映画館の大きな音で聴くスライ＆ファミリーストーンの音楽は
格別でした。
いずれ、映画のライブのシーンのように、バンドを率いて来日し
元気な姿を見せて欲しいと願っています。