1980年代の『家なき子』や『宝島』、『劇場版 エースをねらえ!』、そして『あしたのジョー2』。いずれも当時、ファンを熱狂させていた東京ムービーの制作したアニメ作品です。
これら思い出深い作品の数々を手掛けられたのが出崎統監督とアニメーター杉野昭夫さんでした。アニメブーム時からお二人の人気は別格でしたから、例え他の作品のファンが集まっても、お二方の手掛けられた作品が話題に上がると皆熱心に語りあっていました。
それは単に熱血とも違う、人の生きる熱さ、そのキャラクターの感情の高ぶりが画面から観る者に直球のようにダイレクトに伝わってきていたからでしょう。
そして、見事にその瞬間を表現してくれていたのが、ハーモニー(描き絵)という手法でした。今回出版された『ハーモニーという世界 ~アニメが名画になる瞬間~』(ぴあ(株)刊)のページを開き、かつて『あしたのジョー2』や『家なき子』などを見ていた時代を思い出しました。
アニメーターが描いた線に沿って、単純に色を塗って描るだけではなく、それと勝負するつもりで、もっと良いものにしようと思われていたという、当時の美術監督だった小林七郎さんのコメントで、なぜあの頃ハーモニーの絵に感動していたか、その秘密の一端が分かった感じがしました。
もちろんハーモーニーという手法は、出崎統さんたちだけが使ったものではありません。ただ、あの頃の『あしたのジョー2』や『家なき子』、『劇場版 エースをねらえ!』には、他の作品とはどこか違う魅力がありました。
出崎統さんは、その後も『おにいさまへ・・・』や、『B.B』、『華星夜曲』、そして『白鯨伝説』などでもハーモニー表現を使っておられましたが、やはりこの時代の作品が印象に残っています。
本来動かない絵を動かすのが、アニメーションの魅力でしょう。そのアニメーションの中で、作品に流れる時間を見事に圧縮して見せる。その瞬間を切り出して観ている者により印象付けるのが、ハーモニー(描き絵)なのです。ある意味では、出崎さんが紡ぎだすドラマにおける、句読点のような役割だったのかもしれません。
私も『あしたのジョー2』の放映時、ハーモニーの絵をじっくりと見たくて日本テレビが出版していたA5判のアニメコミックスを、なけなしのこづかいで買っていました。
本書では『あしたのジョー2』のハーモニー画が、多く収録されています。先日の『スポ根展!』でも実物を見ることができましたが、こうして一冊の画集に改めてまとめてもらえたのはうれしいことです。
『ハーモニーという世界 ~アニメが名画になる瞬間~』
ぴあ刊 B5横判
ハーモニー画の製作過程の説明は、なかなか難しいです。
同じ出崎・杉野作品でOVA『B.B』のハーモニーが手持ちに
ありましたので、実例で見ていきましょう。
左:まず絵コンテを元に、原画家がレイアウトを描きます。
右:レイアウトを作画監督がチェックして修正します。
原画担当のアニメーターが戻された修正を元に原画を描きます。
通常ですと動画担当に線をクリンナップしてもらうのですが、
このカットは原画をそのまま動画として使用したようです。
左:動画の描線をセルにマシントレスします。
右:輪郭の描かれた動画を元に背景担当が、背景画を画用紙に絵の具で描きます。
セルと背景画をあわせて、ハーモニー画の出来上がりです。
やはりこの乙部さん、迫力が違いますね
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