村上もとかさんの『フイチン再見！』完結

　『龍　-ＲＯＮ-』や、『ＪＩＮ－仁－』など、骨太な長編でおなじみの村上もとかさんが、上田としこさんの生涯を描いた『フイチン再見！』。３月２０日発売の『ビッグコミックオリジナル　４／５号』で、ついに最終回を迎えました。
　村上さんは１９５９年（昭和３４年）頃、近所のお姉さんに見せてもらった『少女クラブ』で『フイチンさん』に出会いました。満州を舞台にした、中国人の活発な少女の物語に魅了されたのです。
　そして、明るく天真爛漫なフイチンさんや満州への思いを強く持たれたそうです。２０１３年から始まった『フイチン再見！』の第一話では、その村上少年の『フイチンさん』との出会いから、その当時の上田としこさんの様子が描かれます。
　上田さんは連載を９本も抱えた人気マンガ家であり、並行してモデルやタレント活動もされるくらい、行動的な人でした。この一話には、漫画家の座談会企画に出席していた手塚治虫さんも登場し、彼女に多大な影響を与え亡くなった父も現れます。
　そんな盛りだくさんの第一話に、私もいきなり引き込まれた１人です。以降、少女時代から上田さんの生涯を丹念に追い、決して美化するだけでなく描かれた姿は、読者もまるでその場で一緒に過ごしているかのようにも感じさせられました。
　後年、漫画家時代にも作品を生み出すため苦悩し続ける姿は、読んでいてつらいものでした。また担当編集者と衝突し、編集部を飛び越え社長に直訴するなどは困ったやり方ですが、上田さんのご事情があったことも分かりました。
　村上さんのペンも決して上田さんにべったりと寄りすぎず、さりとて冷静に突き放しすぎずと、同じ人間として、そして人生の先輩の姿として暖かく描いてくれているのが魅力でした。
　最終回では、知人の結婚式での手塚さんとのエピソード、ライバルと意識してきた長谷川町子さんとのお別れ。そして、懐かしき父親との邂逅までが描かれます。
　『フイチンさん』のアニメ映画化のために訪れた、エクラアニマルの本多敏行さんと豊永ひとみさんも登場します。そして完成披露上映の観客席には、村上さんの姿もありました。
　この『フイチン再見！』では、戦前戦後を生き抜いてこられた上田としこさんの波乱に満ちた生涯とともに、見事な描写力によってその時代や舞台各地の空気感までも蘇らせてくれました。
　『フイチン再見！』という作品を描き上げられた村上もとかさんに改めて感謝し、単行本の完結となる１０巻の刊行を待ちたいと思います。　
　

『ビッグコミックオリジナル』４／５号（小学館刊）