上梨一也さんに感謝

　虫プロ出身の元アニメーター、上梨一也さんが、７月に亡くなられたそうです。
　金山明博さんから、お電話でお知らせいただきました。

　金山さんも上梨さんの奥様より、お手紙でお知らせいただいたそうです。５月に交通事故に遭われたことは知らせていただいてましたが、急なことで言葉もありません。
　金山さんも突然の思いもしなかった報せに、大きなショックを受けておられました。金山さんと上梨さん、そして荒木伸吾さんは同い年で、とても仲の良い友人同士でした。

　お三方がお会いするときは、思い出の西部劇映画や名優、そして手塚マンガのことなど、いつも盛り上がって楽しい雰囲気だったことを覚えています。ノリのよい金山さん、荒木さんの静かな語り、お好きな映画の話になると早口になる上梨さん、と皆さんの個性はまったく違います。ですが『ジャングル大帝』班以来のお付き合いですので、長年の信頼関係はその会話からも伝わってきました。

　昨年の塩山紀生さんの訃報に続き、仲の良かった上梨さんを失われたのですから、金山さんも電話口でもかなり落胆されたご様子が分かりました。

　上梨さんは石黒昇さんとも日大芸術学部在学中に出会われ、そのアニメ談義から石黒さんがアニメーションの道に入られたことも、広く知られているエピソードです。

　私も、上梨さんに「アニメ・インタビュー」を毎回お読みいただき、ご感想をいただくことが励みになっていました。
　常に奥ゆかしい上梨さんは、いつも「いやあ、皆さんすごいですね。こんなすごい人たちがアニメーターをやっているんですから、私は早めに辞めてよかったんですよ」とおっしゃっておられましたが、そんなことはありません。
　『まいっちんぐマチコ先生』で全話作監を担当されたり、『闘将ダイモス』や『未来ロボ　ダルタニアス』の動画チェックなど、責任感の強い上梨さんの誠実な仕事があってこその作品も多数あります。

　上梨さんは、ずっと年下だったにもかかわらず私をアニメファンの後輩として、常に気にかけてくださいました。今度の新刊『伝説のアニメ職人（クリエーター）たち』の出版も、内緒でこっそり先行販売に出向いて購入していてくださり、我がことのように喜んでくれたのが上梨さんでした。

　ディズニー作品を愛し、一番お好きだった「シリーシンフォニー」シリーズのこと。アニメーター時代の悲喜こもごもの思い出、他業種に転職した後、手塚治虫さんに「なぜアニメーターを辞めたんですか」と、寂しそうに言われたこと。今まで折に触れ、いろんなことをお話いただきました。

　上梨一也さんのご冥福をお祈りするとともに、生前のご厚情に心から感謝申し上げます。


上梨一也さんの描かれた『鉄腕アトム』の色紙　


上梨さんと金山明博さん、荒木伸吾さん


上梨さんと石黒昇さん