マンガファンに刺激的な『コミックスのメディア史』(山森宙史)その2
- 2020/03/21
- 09:00
古くからのマンガファンには、おなじみのコミックス。その成り立ちから存在理由まで研究したのが、山森宙史さんによる『「コミックス」のメディア史』です。
コミックスがなぜ流通上、雑誌扱いと書籍扱いの二通りになっているのかは、長年の疑問でした。それが、そもそもは講談社によるコミックス拡販のための施策だったとは、本書で初めて知りました。
日本中に『少年マガジン』など雑誌と同じように読者に届けられるよう、通常の書籍扱いではなく雑誌扱いにして、雑誌を販売している全国の小さな書店にも配本が行き渡るようにしたというのです。
体裁は書籍なのに、流通上の扱いは雑誌という不思議なカテゴライズは、ここで生まれたのです。他にも、歴史を追った上でのそれぞれの考察は、興味深いものでした。
そういえば昔、『巨人の星』や『天才バカボン』、『ゲゲゲの鬼太郎』などのKCコミックスは、茶色く変色してしまうような紙質の悪い紙も使われていました。これは雑誌扱いだったからということではないでしょうが、ちょっとそんなことも思い出しました。
本書を読み進めますと、多少気になる記述もありました。
書籍風コミックスの流れとして、大友克洋さんの『AKIRA』の単行本がA5判で書籍コーナーに並べられていた、という箇所です。
実際はB5サイズで、当時多くの書店でもコミックコーナーに平積みされていました。B5サイズのマンガ単行本を書籍コーナーに置く時代では、まだなかったと記憶しています。
また本書の脚注では、徳間書店の『風の谷のナウシカ』(宮崎駿)は、B5判コミックスとして刊行と記述されています。この第1巻は、最初はB5判で雑誌『アニメージュ』の増刊という形でした。
その後デザインを変えた表紙カバーを付け、「アニメージュコミックス エクストラ」として新装版第1巻を再販し、続きも刊行されたのです。
これらは実際に体験されていないことを調べられたわけですから、仕方のないことだったかもしれません。
現在では、マンガは電子版で読む人も増え、コミックスは単なる印刷されたパッケージにすぎないと考える若い世代も多いようです。
ただ古くからのマンガファンは、なぜこれほどまでにコミックスに思い入れを持ったのか。
初版や、増補新訂版、連載時完全収録版など、思い入れのある作品に、別バージョンが出されると私も今でも心を動かされます。
コミックスは、作品や作者と愛読者をつないでくれる、一種の特別な回路のようなものだったような気もしています。
そんな答えの手がかりを、明かされたような刺激的な本でした。(了)

山森宙史著『「コミックス」のメディア史』(青弓社刊)

講談社刊の『AKIRA』第1巻
徳間書店『風の谷のナウシカ』第1巻
最初の「アニメージュ増刊」版と、
「アニメージュコミックスエクストラ」版です。
コミックスがなぜ流通上、雑誌扱いと書籍扱いの二通りになっているのかは、長年の疑問でした。それが、そもそもは講談社によるコミックス拡販のための施策だったとは、本書で初めて知りました。
日本中に『少年マガジン』など雑誌と同じように読者に届けられるよう、通常の書籍扱いではなく雑誌扱いにして、雑誌を販売している全国の小さな書店にも配本が行き渡るようにしたというのです。
体裁は書籍なのに、流通上の扱いは雑誌という不思議なカテゴライズは、ここで生まれたのです。他にも、歴史を追った上でのそれぞれの考察は、興味深いものでした。
そういえば昔、『巨人の星』や『天才バカボン』、『ゲゲゲの鬼太郎』などのKCコミックスは、茶色く変色してしまうような紙質の悪い紙も使われていました。これは雑誌扱いだったからということではないでしょうが、ちょっとそんなことも思い出しました。
本書を読み進めますと、多少気になる記述もありました。
書籍風コミックスの流れとして、大友克洋さんの『AKIRA』の単行本がA5判で書籍コーナーに並べられていた、という箇所です。
実際はB5サイズで、当時多くの書店でもコミックコーナーに平積みされていました。B5サイズのマンガ単行本を書籍コーナーに置く時代では、まだなかったと記憶しています。
また本書の脚注では、徳間書店の『風の谷のナウシカ』(宮崎駿)は、B5判コミックスとして刊行と記述されています。この第1巻は、最初はB5判で雑誌『アニメージュ』の増刊という形でした。
その後デザインを変えた表紙カバーを付け、「アニメージュコミックス エクストラ」として新装版第1巻を再販し、続きも刊行されたのです。
これらは実際に体験されていないことを調べられたわけですから、仕方のないことだったかもしれません。
現在では、マンガは電子版で読む人も増え、コミックスは単なる印刷されたパッケージにすぎないと考える若い世代も多いようです。
ただ古くからのマンガファンは、なぜこれほどまでにコミックスに思い入れを持ったのか。
初版や、増補新訂版、連載時完全収録版など、思い入れのある作品に、別バージョンが出されると私も今でも心を動かされます。
コミックスは、作品や作者と愛読者をつないでくれる、一種の特別な回路のようなものだったような気もしています。
そんな答えの手がかりを、明かされたような刺激的な本でした。(了)

山森宙史著『「コミックス」のメディア史』(青弓社刊)

講談社刊の『AKIRA』第1巻
徳間書店『風の谷のナウシカ』第1巻
最初の「アニメージュ増刊」版と、
「アニメージュコミックスエクストラ」版です。
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