私は小さい時から本好きの子どもだったようです。様々な絵本を、両親は幼児期に与えてくれました。童話や動物、乗り物など、いろんな本がありました。
今でも覚えているのは、1968年(昭和43年)頃から小学館から出ていた『オールカラー版世界の童話』のシリーズです。その名のとおりオールカラーで、金色の外函に入った豪華なハードカバーの絵本でした。
『イソップのお話』、『グリムのお話』、『アンデルセンの童話』、『アラビアンナイトのお話』、『日本のむかしばなし』などなど、いろんなお話をそれぞれ各巻に分けて収録していました。
もちろん全部で60巻近く刊行されていましたから、私も全部を揃えてもらっていたわけではありません。でも、このシリーズの絵本はどれもお気に入りで、多分10冊以上は持っていたと記憶しています。
このシリーズは、各巻にだいたい4話から6話くらいのお話が収録されていたのですが、それぞれのお話の執筆者と挿絵画家は違いました。梁川剛一、蕗谷虹児、高畠華宵、松本かつじ、黒崎義介、武田将美、花野原芳明、せおたろう、太田じろう、熊川正雄などと、当時でも豪華なメンバーが揃って挿絵をお描きになるという贅沢な絵本でした。
中でも一番のお気に入りは、フランスの画家ピエール・プロブストが描いた『カロリーヌとおともだち』に代表される「カロリーヌ・シリーズ」でした。
この連作は、当時の子どもたちにはかなり人気が高かったようで、日本では長い絶版の時期を経て後にBL出版から再刊されました。私も懐かしくて購入しましたが、本国では版を重ねる間に描き直されていたようで、絵柄の雰囲気や構成が当時のものとはちょっと違っていたのは少々残念でした。
「カロリーヌ・シリーズ」は、主人公のカロリーヌと友達の動物たちの交流がとても素敵で、いつもページを拡げては見入っていました。世界を旅したり、サーカスをやったり、果ては宇宙旅行にまで。
余談ですが、後にこの作品のアニメ化の話があり、実は荒木伸吾さんがキャラクターデザインを手掛けていたことを知りました。残念ながらこの企画は日の目を見なかったのですが、これは是非実現して欲しかったです。なにより、カロリーヌたちが動く姿を、荒木さんの作画で見ることができたら、どれだけ楽しいことだったでしょう。
さて、子どもだって成長していきます。どんなにお気に入りの絵本であっても、ずっと読み続けるわけではありません。この『オールカラー版世界の童話』も、やはり小学校に入ると親が親戚や近所の小さな子どもにあげたりして、あれほど大事にしていたのにいつの間にか手放していました。
ただ子どもの頃に馴染んでいた絵があって、ずっと忘れられない画家さんがいました。それは「みにくいアヒルの子」、や「いつつぶのえんどう」、「シンデレラひめ」などの挿絵を描かれた方、
森やすじさんです。その優しく暖かで清潔感のある絵は、子供心にもその魅力が分りました。いや、森さんの絵があったからこそ、童話の世界にもより引き込まれていたのかもしれません。
愛らしく時には愉快で楽しげな動物たち、物語上どんなに逆境の立場にあっても気品あふれ温かみのある登場人物たち。その絵からにじみ出る優しさは、見ていていつも心をほっとさせてくれ、本を開くとイヤなことも忘れさせてくれました。
そしてある時、出逢った長編映画『長靴をはいた猫』で、びっくりしました。これはお気に入りの挿絵を描いた人と同じ人が描いていると気づいたのです。
後に、森さんはそれ以前にも『漫画少年』(学童社)の表紙や、幼年誌、紙芝居などでも幅広く活躍されていたことを知りました。
そう、実はアニメ映画やテレビアニメを意識する前から、私は優しく暖かく品のある
森やすじさんの絵が大好きでした。たとえ
森やすじさんの名前は覚えていなくても、当時の子どもたちには、森さんの描く絵はおなじみだったのです。
その後も、テレビで見た『フランダースの犬』や、『草原の少女ローラ』、『くまの子ジャッキー』などは、まさに子どもの頃から親しんだあの絵でした。
その後、アニメ雑誌などで森さんのことを知り、ますます好きになりました。当時『アニメージュ』で連載された自伝、『もぐらの歌』は、優しくどこかとぼけていて、でも芯のしっかりしたブレのない森さんの生き方が分かり、ああこういう方が描かれたから、あの魅力的な絵が生まれたんだな、と分かりました。
晩年は目を悪くされ、アニメーションの作画から離れられたそうですが、その頃の『くまの子ジャッキー』の森さんの薄い紙の修正原画は、とても繊細な線で描かれていました。キャラクターを描くにも何本も手を入れそのニュアンスをおろそかにしない姿勢だったからこそ、あの優しい雰囲気が伝わったんだなとも思いました。
森さんは亡くなられましたが、その優しい絵柄に込められた思いは、これからも森さんが手掛けられた絵本やアニメ作品のなかに生き続けていくのでしょう。(了)
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