矢口高雄さんに感謝
- 2020/12/29
- 06:30
『釣りキチ三平』で知られる矢口高雄さんが、11月20日に亡くなられました。81歳でした。
『釣りキチ三平』は、1973年(昭和48年)から『週刊少年マガジン』で10年間連載され、「釣りブーム」を起こした大人気作です。
常に明るく前向きな三平くんたちや、緻密に描きこまれたリアルな自然描写、美しいカラー画稿などが魅力的で、釣りに興味が無い読者でも魅了させられました。
週刊連載でしたが、その間に他にも『月刊少年マガジン』でも、同時に連載されていた頃もありました。あれだけ海や川、山や岩場などを描きこんだ作品を、並行して描いていらっしゃっいました。
『釣りキチ三平』は講談社KCコミックスでは、正編65巻と番外編が2冊出版されています。
第1巻は、1974年(昭和49年)2月の刊行で、最終巻である65巻は1983年(昭和58年)5月の初版です。
この間でKCコミックスにも、様々な変化がありました。1976年(昭和51年)11月刊の16巻からは、KCコミックス・マガジンの表記になります。それ以前は、ボリュームに合わせて収録されるページ数も違っていたのですが、以降はスリムな200ページ弱で統一されるようになりました。全巻揃えていくと、並べた背表紙でKCコミックスの変遷も分ります。
同時期の1976年(昭和51年)『少年サンデー』に連載された、『かつみ』も素敵でした。
まだ自然の中に暮らす山村を舞台に、都会を逃げ出した青年と彼を受け入れる家族の織りなす物語を、四季とともに描く作品は連載時から印象に残っています。
矢口さんの作品は、単なる自然賛歌ではありません。時には人々に過酷に襲いかかる自然現象、その地で生活する人たちの姿、思い、因習、苦悩など、様々な事柄も描かれていきます。
何が正しいか正しくないかではなく、そんな中でも前向きに生きる人々を優しい視点で描くのです。
これは、『おらが村』や『マタギ』などもそうでしょう。
また、エッセイやマンガでも自伝的作品を多数発表されています。中でもご自身の少年時代を描いた『ボクの手塚治虫』は、印象的でした。雪国の山村で過ごし、マンガを入手するのも一苦労の時代に手塚作品に出会った感動。律儀に田舎の矢口少年に、ファンレターの返事をくれた手塚さんの温かさ。
矢口さんもこの作品では楽しそうに、『メトロポリス』のミッチィやケン一、ヒゲオヤジなどを描いていらっしゃいました。
アニメ版『釣りキチ三平』は海外でも放映され、影響された外国のファンも日本に釣りに訪れています。
長年素敵な作品を描き続けてくださった、矢口高雄さんに感謝いたします。
矢口高雄『ボクの手塚治虫』